季節
「光と影が描く、日常の輪郭」
都市にある住まいであっても、季節の変化に寄り添いながら暮らすことはできる。
そう信じて、設計の核に据えたのは「窓」のあり方です。
桜の木が目の前に佇む東南角地。南からの光を受けとめるように、絵画のように縁どった窓。
その外では季節が静かに訪れては過ぎていきます。
最上階に据えたリビングには、時間と共に移ろう光と影が落ち、日々の営みに穏やかな変化を添えてくれます。天井の高さ、開口部のバランス、陰影の重なり、そのすべてが、静かに日々の暮らしに美しい変化をつくり出すためのエッセンスです。
春の風、夏の気配、秋の光、冬の影。それらを感じられることが、豊かさだと思います。
そんな、人が生き物として心地よいと感じる空間が対話を通じて生み出されました。
家族ができ住まいを考える。
上質でいて気取らない「人」を感じるあたたかな家を一緒に創りたいなと思わせてくれたお二人の印象が強く残っていたので、人生の節目となる「家づくり」のスタートに、お声がけ頂いた時はとてもうれしく思いました。
出会い
「問いかけから始まる、家づくり」
最初にお会いしたのは、ご夫婦おふたりの頃。「どんな建物が、どのくらいの予算で建てられるのか」そんな素朴な問いから、対話は始まりました。これまでどんな経験をしてきたのか、どんな住まいが良いのか。これからどう生きたいのか。それらを探求し熟考する時間は、設計の工程であると同時に、暮らしの輪郭を描き出す旅でもあります。ヒアリングを重ねるなかで、単に飾りめいた便利な家をつくるのではなく、住まう人の温い等身大の姿を感じられる家をつくりたいという想いが伝わってきました。
お施主様の温かさと誠実さが今でも心に残る。再びお声がけいただいたとき、素直に「この方々と一緒に家をつくれることがうれしい」と、自然に思えた。
再会
「一人から、二人へ。そして三人で。」
再びご連絡をいただいたのは、最初の対話から約一年後のことでした。
日々過ぎゆくなかで人は変わり、暮らしも変わっていく。その変化とともに住まいのカタチも人の変化と共に柔らかく更新されていくべきだと思います。再会は、かつて交わした問いをもう一度深く掘り下げる時間でもありました。再会の日にベビーカーに乗ったお子さんとご一緒に来られたお二人。新しい家族というかたちが生まれた今、どんな居場所が必要か、私たちは共に新たな対話を始めました。
キッチンの壁面に採用したタイルは、ダイナワンのショールームへ行った時に見つけ、この住まいに合わせてみたくてご提案したもの。グレーにも馴染む色味で合わせ、シャビ―テイストなガラスモザイクでシックな空間に遊び感覚で変化をつけています。
成長
「静けさの中で、豊かさが育つ」
ご新居に訪れたのは、冬の日でした。やわらかな日差しが、室内の奥まで差し込む時間。ツワブキの黄色い花が庭にひっそりと咲いていて、それを見た瞬間、季節とともに息づく暮らしの中にある日々の静かな変化を感じました。
以前はまだ小さかったお嬢様が、テレビ台の写真立てを指差して笑う姿。自分の姿が写っていることを誇らしげに話す様子に、ご家族の物語の時間が確かに進み、住まう人に変化があることを知りました。収納の多さよりも「余白」を大切にした設計は、暮らしにゆとりをもたらし、そこに心の豊かさが育まれる。
家とは成長の器であり、記憶を編んでいく場所でもあります。時間と共に、家族と共に、静かに変わり続けていく、そんな皆の成長と調和した住まいであってほしいと願いながら。
コンクリートでふさいでしまえば手入れをせずに済ますこともできます。それでも地に根を下ろして成長していく緑や草花が四季の息吹を道行く人に伝え、自生する力強い姿や美しい自然の色に心が通う瞬間が街並みの中に生まれていってほしいなという願いも込めて。