出会い
「一本の紹介から始まった家づくりの物語」
ある日、友人から一本の電話が届きました。「家づくりを考えている知人がいるので、ぜひ一度話を聞いてみてほしい」と。今はハウスメーカーに勤める彼が、「型にとらわれない提案をしてくれる人がいる」と推薦してくれたことが、ご縁の始まりでした。
予算や手段に限りがある中でも、思い描く自分たちらしい暮らしを実現したい。そのような思いを抱えながら、いくつかの会社に相談を重ねていたというご夫妻。しかし、どこも「ここまでしかできません」というどこか効率的な会話で、限界の中で提案される話に、心が動かなかったといいます。
私たちが投げかけたのは、“できない理由”ではなく、“できる可能性”を広げる対話でした。そのやりとりの中で、ご夫妻の表情が少しずつほころび、図面を見る目がきらきらと輝いていくのがわかりました。家という箱ではなく、暮らしそのものを描いていくようなプロセスに、わたしたちも胸が高鳴りました。
対話
「庭の記憶が宿る家」
「小さいころ、自分の家の庭でよく遊んでいたんです」そう語る奥様のまなざしには、今でもその情景がくっきりと残っているようでした。風に揺れる草花の音、柔らかい土の感触、ただそこにいるだけで安心できた空気──子どもの頃の記憶が、今も静かに息づいているのだと感じました。
そして、その記憶を、次の世代へとつなぎたい。お子さまにも「自分の家の庭」でのびのびと過ごしてほしいという願いが、家づくりの芯に据えられました。室内から連続するように広がる庭の配置や、リビングから見渡せる視線の流れは、まさに奥様が小さい頃に抱いた、その想いをかたちにしたものです。
計画
「リビングの居場所をめぐる対話」
初期のプランでは、リビングは一階に──ご夫妻の中では、そうした構想をお持ちでした。しかし、ご夫妻の感性を軸に敷地条件や周辺環境を丁寧に読み解いたうえで、私たちはあえて「二階リビング」という選択肢を提案しました。
高台のような視点から日常を眺めることができる空間。天井の高い吹き抜けから豊かに光が降り注ぎ、時間とともに移ろう空の表情が、まるで窓いっぱいの絵画のように広がります。
最初は少し戸惑いもあったご夫妻でしたが、模型やスケッチを通じて空間の立体感を共有しながら、じっくりと対話を重ねました。そして最後には「二階にしてよかった」と、笑顔で言ってくださったその言葉が、今も印象に残っています。
完成
「光と素材が織りなす、やわらかな居場所」
完成した住まいは、素朴でありながら凛とした美しさをたたえています。床には無垢のフローリングを用い、素足で歩くたびに木の温もりが伝わってくる設え。壁は白い塗り壁で仕上げ、自然光をやわらかく反射させて空間に静けさと明るさをもたらします。
素材の選定においても、「手ざわり」や「光の質感」といった感覚を大切にしながら、ひとつひとつのディテールを積み重ねていきました。ナチュラルでありながらも、どこか懐かしさを感じさせるこの住まいは、ご家族のこれからの時間をやさしく包み込む器として完成しました。
窓辺から見える庭の緑、お子さまの笑い声、キッチンで交わされる日常の会話。どの瞬間にも、確かな暮らしの輪郭が浮かび上がっています。
成長
「未来へ受け継がれる“記憶の場所”」
住まいは完成した瞬間が終わりではありません。暮らしが始まり、日々の営みを重ねることで、空間が呼吸を始め、家が「家族の記憶」となっていきます。
ご家族がこの場所で過ごす季節の数だけ、思い出もまた積み重なっていくことでしょう。お子さまが庭で遊ぶ姿を、今度は大人になって思い返す日が来るかもしれません。そのときこの家が、記憶の起点として心に灯り続けていることを願っています。
ひとつの家が生まれるまでには、出会いがあり、対話があり、数えきれないほどの選択があります。しかし、そのすべてがお施主様それぞれにある根源的な「暮らしに対する想い」によってつながっていたのだと、改めて感じる住まいとなりました。
光と記憶が交差するこの場所で、ご家族の新たな物語が紡がれていきますように願っております。